近年、保育所や幼稚園、小学校などで発達支援が必要な子どもをサポートする「保育所等訪問支援」への注目が高まっています。インクルーシブ教育の推進により、現場での専門的な支援の重要性が増す一方で、経験のある人材や連携体制の確保に課題を抱える事業所も少なくありません。
この記事では、保育所等訪問支援の仕組みやメリット・デメリットについて、導入時の注意点や成功のポイントを交えて解説します。
児童発達支援や放課後等デイサービスを運営する事業所が、新たに参入すべきかを判断するための材料としてお役立てください。
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保育所等訪問支援の5つのデメリット

保育所等訪問支援には多くの利点がある一方で、運営面では注意すべき課題も存在します。ここでは、導入前に理解しておきたい5つのデメリットを挙げ、それぞれの具体的な内容とリスクを解説します。
訪問先との連携・調整に時間と労力がかかる
経験豊富な訪問支援員の確保と育成がむずかしい
報酬単価が低く単独での収益確保がむずかしい
既存事業との両立でスタッフの業務負担が増加する
個別支援計画や訪問先評価など書類業務が煩雑になる
①訪問先との連携・調整に時間と労力がかかる
保育所等訪問支援では、訪問先との日程調整や情報共有に多くの時間と労力が必要です。支援の実施には保育所・幼稚園・学校側の行事予定や担任の先生のスケジュールを考慮する必要があり、柔軟な調整力が求められます。
また、個別支援計画を作成する際には、訪問先施設の担当者を交えた会議の開催が義務付けられており、調整の手間が増える点も負担となります。訪問後のカンファレンスやフィードバック作業など、直接支援以外の事務的業務も多く発生するため、支援時間以外の業務負担を想定した体制づくりが重要です。
②経験豊富な訪問支援員の確保と育成がむずかしい
保育所等訪問支援を安定的に運営するうえで課題となるのが、経験豊富な訪問支援員の確保と育成です。訪問支援員として配置できるのは、児童指導員・保育士・理学療法士などの職種に限定されており、採用の選択肢が限られます。
また訪問支援では子どもの個別支援だけでなく、訪問先施設の職員へ助言や支援を行う能力も求められるため、専門的なスキルとコミュニケーション力の両立が必要です。
さらに、訪問支援員特別加算を取得するには5年以上の実務経験が条件となるため、該当スタッフの確保が難しく体制づくりに時間を要する点がデメリットといえるでしょう。
③単独での収益確保がむずかしい
保育所等訪問支援は、単独での収益確保が難しい点が課題です。基本報酬は1回あたり900単位前後(30分以上の支援の場合)に設定されており、月2回程度の利用が一般的なため1人あたりの月額収益は2万円程度にとどまります。
また、訪問には移動時間や記録作業など、支援以外の業務も多く発生します。これらを含めると実質的な時給換算での収益性は低く、採算を取るには効率的なスケジュール管理や他事業との併設運営、加算の活用が不可欠です。
出典:厚生労働省|障害福祉サービス費等の報酬算定構造(63ページ)
④既存事業との両立でスタッフの業務負担が増加する
保育所等訪問支援を既存事業と並行して運営する場合、スタッフの業務負担が増加しやすい点にも注意が必要です。訪問支援は児童発達支援や放課後等デイサービスのスタッフが兼務するケースが多く、訪問スケジュールと事業所での支援時間を両立させるための調整が複雑になります。
また、訪問先への移動時間が発生することで、現場での支援時間が圧迫されることもあります。さらに個別支援計画の作成や訪問記録の作成など書類業務も追加で発生するため、事務負担が増える傾向です。効率的な業務分担と体制整備が求められます。
⑤個別支援計画や訪問先評価など書類業務が煩雑になる
保育所等訪問支援では令和6年度から新たに評価制度が導入され、書類業務がさらに煩雑化しています。訪問先施設による評価結果の公表が義務化されたほか、個別支援計画を作成する際には訪問先施設を交えた会議の開催とその記録が必須となりました。
加えて、自己評価・保護者評価・訪問先評価の3種類の評価を定期的に実施し、結果をもとに改善を行うことが求められています。これにより支援の質向上が図れる一方で記録作業や管理業務の負担は大きくなり、職員の事務的な負担軽減策を検討することが重要です。
出典:こども家庭庁|保育所等訪問支援における評価制度(自己評価・保護者評価・訪問先施設評価)の導入について
保育所等訪問支援の5つのメリット

保育所等訪問支援を導入することで得られる5つの主なメリットを紹介します。既存事業との連携や経営面での利点など、導入を検討する際に押さえておきたいポイントをまとめました。
既存事業との人員・設備共有で初期投資を抑えられる
児童発達支援との併用で包括的な支援が実現できる
訪問先・保護者との連携で事業所の信頼性が向上する
収益源の多様化により経営の安定性が高まる
地域で専門性をアピールでき競合との差別化につながる
①既存事業との人員・設備共有で初期投資を抑えられる
保育所等訪問支援は、既存の児童発達支援や放課後等デイサービスと人員や設備を共有できる点が大きなメリットです。訪問支援員はこれらの事業で勤務する保育士や児童指導員が兼務できるため、新たに専門職を採用する必要がないケースもあります。
また、訪問支援は利用者宅や保育所・学校など外部の施設で支援を行うため、専用のスペースや高額な備品を整える必要がありません。新規開設時にかかる初期投資を最小限に抑えられることから、既存事業所にとっては導入しやすい事業形態といえます。
②児童発達支援との併用で包括的な支援が実現できる
保育所等訪問支援は、児童発達支援と併用することで子どもの発達をより包括的に支援できます。事業所で行う個別・集団支援に加え、訪問先では実際の生活環境に応じた支援や調整が可能となり、家庭・園・学校のすべての場面で成長をサポートできるのが特徴です。さらに、訪問を通じて子どもの集団での様子を直接観察し、その情報を事業所での支援内容に反映させられます。保護者と訪問先施設の双方と連携を深めることで、一貫性のある支援体制を築き、子どもの「できること」を着実に伸ばせる点が大きな強みです。
③訪問先・保護者との連携で事業所の信頼性が向上する
保育所等訪問支援では、保育所や学校などの訪問先や保護者との密な連携を通じて、事業所の信頼性を高められます。訪問支援員が現場の職員と協働し、子どもの支援方法や環境調整を一緒に検討することで、地域の中で「専門的な支援機関」としての認知度が向上します。
また、令和6年度からは訪問先施設による評価制度も導入され、支援の質を客観的に示すことが可能になりました。さらに保護者にとっても「園や学校での様子がわかる」「先生との橋渡しをしてくれる」といった安心感が得られ、利用者満足度の向上にもつながります。
④収益源の多様化により経営の安定性が高まる
保育所等訪問支援を導入することで事業の収益源を多様化し、経営の安定性を高められます。既存の児童発達支援や放課後等デイサービスの利用者数が変動しても、訪問支援の利用者が一定数いれば収益を分散できるためリスク軽減につながります。
訪問支援は月2回程度の定期的な利用が多く、安定した報酬を得やすい点も魅力です。また、処遇改善加算など既存事業と同様の加算が算定できるため、単価の低さを補いながら収益性を確保できるでしょう。
長期的に見ても、複数事業を組み合わせることで経営基盤をより強固にすることが可能です。
⑤地域で専門性をアピールでき競合との差別化につながる
保育所等訪問支援を展開することで、地域における専門性を明確に打ち出し、他事業所との差別化を図れます。
とくに保育所や学校などの集団生活の場で子どもを支援するスキルは、地域の中でも高い専門性として評価されやすい分野です。さらに、5年以上の実務経験を有するスタッフが配置されることで算定できる「訪問支援員特別加算」は、専門性を客観的に証明する指標となります。
こうした取り組みや訪問先との連携実績は、自治体や保護者からの信頼獲得や新規利用者の増加にもつながり、事業所のブランド価値向上にも貢献するでしょう。
保護者から見た保育所等訪問支援のメリット・デメリット

お子さまが安心して園生活を送るために、保育所等訪問支援を検討する保護者も増えています。利用前に知っておきたいメリットとデメリットをまとめました。
メリット | ・子どもの特性に合わせた個別支援を、園や学校などの実生活の場で |
デメリット | ・利用枠が限られ、希望する日時に利用できないことがある |
保育所等訪問支援は子どもの生活環境に寄り添った支援が受けられる点で、保護者にとって魅力があります。一方で利用頻度や園との調整に制約が設けられている場合もあるため、家庭・園・事業所が連携して長期的に取り組むことが重要です。
保育所等訪問支援を導入すべき事業所・見送るべき事業所の特徴

保育所等訪問支援は、すべての事業所に適しているわけではありません。ここでは、導入を検討する際に知っておきたい「導入に向いている事業所」と「見送るべき事業所」の特徴を整理します。
保育所等訪問支援を導入すべき事業所の特徴
保育所等訪問支援の導入を見送るべき事業所の特徴
保育所等訪問支援を導入すべき事業所の特徴
保育所等訪問支援の導入に向いているのは、すでに児童発達支援や放課後等デイサービスを運営しており人員や設備にある程度の余裕がある事業所です。これらの事業で培ったノウハウや専門職スタッフを活用することで、スムーズに訪問支援をスタートできます。
また、地域の保育所・幼稚園・学校などとの連携実績があり訪問先との信頼関係を築ける事業所は協働体制を整えやすく、安定した運営が期待できます。さらに5年以上の実務経験を持つベテラン職員が在籍している場合、訪問支援員特別加算を取得でき専門性と収益性の両面で優位に立てるでしょう。
保育所等訪問支援の導入を見送るべき事業所の特徴
保育所等訪問支援の導入を見送ったほうがよいのは、既存事業の運営に十分な余裕がない事業所です。たとえば、利用者数が定員に達しておらずスタッフが既存事業の支援や書類業務で手一杯な場合は、新規事業を追加すると業務負担が過大になるおそれがあります。
ほかにも訪問先となる保育所や学校との連携実績がない事業所では信頼関係の構築に時間がかかり、運営初期に軌道に乗せにくい傾向があります。加えて収益性を最優先する経営方針の場合は報酬単価の低い保育所等訪問支援は採算が合いにくいため、慎重な判断が必要です。
保育所等訪問支援で失敗しないための3つの対策

保育所等訪問支援を安定して運営するためには、制度上の理解だけでなく現場での工夫や体制づくりが欠かせません。ここでは導入後に直面しやすい課題を踏まえ、失敗を防ぐための3つの具体的な対策を紹介します。
訪問先との信頼関係を構築する
加算を最大限活用して収益性を確保する
既存事業との兼務体制を最適化し業務負担を軽減する
①訪問先との信頼関係を構築する
保育所等訪問支援を円滑に進めるためには、訪問先施設との信頼関係の構築が欠かせません。初回訪問前には支援の目的や内容を丁寧に説明し、事前打ち合わせを通じて訪問先と支援方針を共有しておくことが重要です。
訪問後のフィードバックでは子どもの様子や改善点を具体的に伝えるとともに、訪問先職員の負担を軽減できるような実践的な提案を意識しましょう。
また、個別支援計画の作成会議では訪問先施設の意見を積極的に取り入れ、協働姿勢を示すことで相互の信頼が深まり、長期的な連携体制の構築につながります。
②加算を最大限活用して収益性を確保する
保育所等訪問支援は報酬単価が低めに設定されているため、加算を効果的に活用して収益性を高めることが重要です。まず、5年以上の実務経験を持つ支援員が配置されている場合は「訪問支援員特別加算」を積極的に取得しましょう。
加えて「福祉・介護職員等処遇改善加算」を確実に算定することで基本報酬の低さを補い、職員のモチベーション維持にもつながります。ほかにも「多職種連携支援加算」や「強度行動障害児支援加算」など、事業所の体制に応じて取得可能な加算を漏れなく確認することが安定した経営を実現するポイントです。
③既存事業との兼務体制を最適化し業務負担を軽減する
保育所等訪問支援を既存事業と両立させるには効率的な兼務体制の構築が欠かせません。訪問支援を実施する曜日を週1〜2日に集約することで移動時間のロスを減らし、支援の計画性を高められます。
また、訪問記録や個別支援計画のフォーマットを統一しておくと記入作業の手間を削減でき、職員の負担を軽減できます。
児童発達支援管理責任者が複数事業を兼務する場合には業務分担や報告ルールを明確化することが重要です。無理のない体制を整えることで、支援の質とスタッフの働きやすさを両立できます。
保育所等訪問支援の経営でよくある質問

保育所等訪問支援の導入や運営にあたっては、人員配置や加算要件、収益性など多くの疑問が生じます。ここでは、事業者から寄せられる代表的な質問とその回答をまとめました。
訪問支援員は兼務できますか?
訪問先に受け入れを拒否された場合の対処法はありますか?
保育所等訪問支援だけで事業は成り立ちますか?
加算を取得するための実務経験年数の要件は何ですか?
訪問支援員は兼務できますか?
保育所等訪問支援では既存事業の職員が訪問支援員を兼務することが可能です。児童発達支援や放課後等デイサービスで勤務する児童指導員や保育士のほか、管理者や児童発達支援管理責任者も条件を満たせば兼務できます。
そのため新たな採用を行わずに人員体制を整えやすく事業運営に柔軟に対応できます。ただし兼務する場合はそれぞれのサービス提供時間帯に適切な人員を確保する必要があるため、スケジュール調整が重要です。勤務時間や担当範囲を明確にし、無理のない運営体制を整えることが求められます。
訪問先に受け入れを拒否された場合の対処法はありますか?
訪問先となる保育所や学校に受け入れを拒否された場合は、まず焦らずに丁寧な説明を行うことが大切です。保育所等訪問支援の目的や支援内容を具体的に伝え、子ども本人や園全体にとってどのようなメリットがあるのかを理解してもらいましょう。
施設側の懸念点(時間的負担、ほかの子どもへの影響、支援員との関わり方など)を把握したうえで解決策を提案する必要があります。それでも調整が難しい場合は、市町村の障害児支援担当課に相談しましょう。行政を通じて施設への説明や働きかけを依頼することで、スムーズな受け入れにつなげられます。
保育所等訪問支援だけで事業は成り立ちますか?
保育所等訪問支援は基本報酬が比較的低く設定されているため、単独で事業を成り立たせるのは難しいのが現状です。1回あたりの報酬単価が低いうえに移動や記録業務など支援以外の時間も発生するため、実質的な時給換算では採算性が下がります。
そのため保育所等訪問支援のみでの運営は推奨されず、児童発達支援や放課後等デイサービスと併設し相互に利用者支援と収益を補完し合う形が現実的です。
複数事業を連携させることで、安定した経営基盤を築きながら、より幅広いニーズに対応できる体制を整えられます。
加算を取得するための実務経験年数の要件は何ですか?
訪問支援員特別加算を取得するためには保育所等訪問支援などの業務に5年以上従事した実務経験が必要です。「実務経験」には常勤だけでなく非常勤での勤務期間も含まれるため、一定の勤務実態があれば1年としてカウントされる場合があります。
また、資格取得前や正式な配置前であっても障害児への直接支援や相談支援、またはこれらに準ずる業務経験があれば実務経験として認められるケースもあります。ただし、自治体によって判断基準が異なる場合があるため、必ず確認することが大切です。
出典:こども家庭庁|障害福祉サービス等報酬(障害児支援)に関するQ&A一覧
(69~70ページに訪問支援員特別加算の実務経験要件に関するQ&Aが記載)
保育所等訪問支援のメリット・デメリットを踏まえて参入するか判断しましょう

保育所等訪問支援の導入は子どもの成長を支援するだけでなく、地域の教育・福祉機関と連携してインクルーシブな環境づくりに貢献できる社会的意義の高い取り組みです。既存事業との人員共有や包括的な支援体制など多くのメリットがある一方で、人材確保や書類業務の負担など、運営面での課題もあります。
今回紹介したように制度の仕組みや加算の活用方法を正しく理解し、自社の体制に合った形で導入を検討することがポイントです。
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