「放課後等デイサービスとはどのような事業なのか?」
「開業には特別な資格が必要なのか?」
このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
本記事では、放課後等デイサービスの開業を検討している方向けに、事業の役割やサービス内容、資格の必要性、市場の動向、開業までの流れを詳しく解説します。
1. 放課後等デイサービスとは?概要や対象者、役割を解説
放課後等デイサービスは、障害のある子どもが放課後や長期休暇中に療育(発達支援)を受けられる事業です。
ここでは、その概要や利用対象者、目的・役割について詳しく解説します。
(1)放課後等デイサービスの概要
放課後等デイサービスは、小学生から高校生までの障害のある子どもが、日常生活のスキルを身につけ、社会性を育むための支援を受けられるサービスです。
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対象:
6歳~18歳(小学生・中学生・高校生)
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目的:
日常生活のスキル習得・集団生活への適応支援
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制度:
2012年の児童福祉法改正により創設
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現状:
療育を必要とする児童の増加に伴い、事業所数が急増中
(2)放課後等デイサービスの利用対象者
放課後等デイサービスは、小学校・中学校・高校に通う6歳~18歳の児童が対象です。
発達の特性や障害のある子どもが、放課後や長期休暇中に適切な支援を受けるために利用されます。
(3)放課後等デイサービスの目的・役割
厚生労働省の「放課後等デイサービスガイドライン」では、放課後等デイサービスの役割を3つの柱に分けています。
1️⃣ 子どもの最善の利益の保障
放課後等デイサービスでは、学校や家庭とは異なる環境で、個々の子どもに適した発達支援を提供します。
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✅ 子どもの発達を支援するための多様な体験の提供
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✅ 個々のニーズに応じた療育プログラムの実施
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✅ 健全な成長と発達の促進
2️⃣ 共生社会の実現に向けた後方支援
放課後等デイサービスは、子どもたちが地域社会に溶け込みながら成長できるよう、放課後児童クラブや児童館などと連携しながら支援を行うことが求められます。
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✅ 障害のある子どもが、地域の子どもたちと共に成長できる環境づくり
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✅ 放課後児童クラブなどの一般的な子育て支援のバックアップ
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✅ 保育所等訪問支援を活用し、障害のある子どもへの専門的支援を提供
3️⃣ 保護者支援
放課後等デイサービスは、子どもだけでなく保護者の負担軽減や育児サポートの役割も担っています。
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✅ 子育ての悩みに関する相談支援
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✅ ペアレント・トレーニングを活用し、家庭内での育児サポート
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✅ 保護者の時間を確保し、一時的なケアを提供
保護者が安心して子どもと向き合える環境を整えることも、放課後等デイサービスの重要な役割の一つです。
(4)放課後等デイサービスと児童発達支援の違い
項目 | 放課後等デイサービス | 児童発達支援 |
対象年齢 | 6歳~18歳(就学児) | 0歳~6歳(未就学児) |
目的 | 学校生活を補完し、社会性を育む | 発達支援・日常生活スキル習得 |
提供時間 | 放課後・長期休暇中 | 日中 |
放課後等デイサービスは就学児向けの支援、児童発達支援は未就学児向けの支援という点が大きな違いです。
2. 放課後等デイサービスの市場動向
近年、放課後等デイサービスの需要は急速に高まっています。
事業所数・利用者数ともに増加しており、市場の拡大が続いている状況です。
① 事業所数の推移
放課後等デイサービスの事業所数は、2012年からの10年間で約5.5倍に増加しています。
📈 2012年 → 現在:約5.5倍に増加
(参考:厚生労働省「社会福祉施設等調査」)
② 利用者数の推移
利用者数も同様に増加しており、2012年からの10年間で約10倍となっています。
📈 2012年 → 現在:約10倍に増加
(参考:厚生労働省「社会福祉施設等調査」)
③ 市場の成長性
放課後等デイサービスは、事業所数・利用者数ともに増加傾向にある成長市場です。
今後も療育を必要とする子どもの増加や、支援体制の拡充に伴い、市場の拡大が続くことが予想されます。
3. 放課後等デイサービスの類型について
放課後等デイサービスは、提供する支援内容によって「総合支援型」と「特定プログラム特化型」の2つに分類される可能性があります。
① 総合支援型
「総合支援型」は、日常生活のサポートや創作活動、地域交流、余暇活動など、包括的な支援を提供する放課後等デイサービスです。
✅ 提供される主な支援内容
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自立支援と日常生活の充実のための活動
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創作活動(工作・絵画・音楽など)
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地域交流の機会の提供(イベント参加・地域活動など)
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余暇の提供(遊びやリラックスの時間の確保)
② 特定プログラム特化型
「特定プログラム特化型」は、特定の専門療法に特化した放課後等デイサービスです。
理学療法・作業療法・言語療法などの発達支援を専門的に提供する施設が該当します。
✅ 主なプログラムの例
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理学療法(PT):
身体機能の向上を目的としたリハビリ
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作業療法(OT):
日常生活動作の訓練や手先の器用さを育む支援
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言語療法(ST):
発語・発音・コミュニケーション能力の向上
③ 今後の制度改正の可能性
今後の報酬改定によっては、これらの類型が正式に区分され、それぞれ異なる報酬体系が設定される可能性があります。
そのため、開業や運営を考えている方は、最新の報酬改定に関する情報を常にチェックし、制度の変更に対応できるよう準備することが重要です。
4. 放課後等デイサービスで提供されるサービスとは?
放課後等デイサービスでは、子どもの発達支援や社会生活の適応を促すために、さまざまなプログラムが提供されています。
ここでは、サービスの内容や1日の流れについて詳しく紹介します。
(1)放課後等デイサービスの基本的な支援内容
放課後等デイサービスでは、以下の4つの基本活動を軸に支援を行います。
🔹 自立支援と日常生活の充実
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基本的な日常生活動作の習得をサポート
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遊びを通じて成功体験を増やし、自己肯定感を育む
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将来の自立や地域生活に向けたスキルを身につける
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学校と連携しながら、一貫した支援を提供
🔹 創作活動
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絵画・工作・音楽などを通じて、表現する楽しさを体験
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季節の変化を感じる活動を取り入れ、豊かな感性を育む
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自然との触れ合いを通じて、興味・関心を広げる
🔹 地域交流の機会の提供
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障害のある子どもが社会経験を積めるよう支援
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地域の学習・体験活動と連携し、社会との接点を増やす
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ボランティアの受け入れを行い、多様な人と関わる機会を創出
🔹 余暇の提供
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子どもがリラックスしながら遊べる環境を整備
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自己選択で取り組める多彩なプログラムを用意
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ゆったりとした雰囲気の中で、自分らしく過ごせる時間を確保
(2)放課後等デイサービスの1日の流れ
放課後等デイサービスのスケジュールは、平日(学校がある日)と休日(休校の日)で異なります。
📌 平日のスケジュール例
時間 | 内容 |
14:00~ | 児童の送迎・到着時の健康チェック |
15:00~ | おやつ・学校の宿題・個別/集団療育 |
16:30~ | 帰宅準備 |
17:00~ | 送迎・帰宅 |
📌 休日のスケジュール例
時間 | 内容 |
09:30~ | 児童の送迎・到着時の健康チェック |
10:00~ | 自由遊び・個別/集団療育 |
11:30~ | 昼食の準備 |
12:00~ | 昼食 |
13:00~ | 自由遊び・個別/集団療育 |
15:00~ | おやつ |
16:00~ | 送迎・帰宅 |
放課後等デイサービスでは、到着後に個別または集団での療育プログラムを実施し、日常生活や社会性を育む支援を行います。
(3)放課後等デイサービスの療育プログラムとは?
放課後等デイサービスでは、事業所ごとの理念や方針に基づき、子どもの発達をサポートするさまざまな療育プログラムが提供されています。
ここでは、療育のアプローチ法、実施方法、具体的なプログラム例を紹介します。
① 療育の方針・アプローチ法
療育には、さまざまな支援方法があります。ここでは、代表的な5つのアプローチを紹介します。
療育法 | 概要 |
応用行動分析(ABA) | 行動と環境を分析し、望ましい行動を強化しながら問題行動を減らす。 |
TEACCH | 自閉症児向けの支援プログラム。特性を活かし、社会適応を支援。 |
認知行動療法(CBT) | 物事の受け取り方(認知)に働きかけ、ストレス対処能力を向上。 |
SST(ソーシャルスキルトレーニング) | コミュニケーション能力を高め、対人関係や集団生活の適応力を向上。 |
箱庭療法 | 砂箱にミニチュアを配置し、自己表現を通じて心理状態を把握し支援。 |
② 療育プログラムの実施方法
療育は、子どもの特性や成長段階に応じて、以下の3つの形式で実施されます。
種類 | 内容 |
個別療育 | 指導員1名が、1人の児童に対してマンツーマンで療育を実施。 |
小集団療育 | 指導員1名以上が、2~5人程度の児童に療育を実施。 |
集団療育 | 指導員1名以上が、5~10人程度の児童に療育を実施。 |
子どもの発達状況や課題に応じて、適切な療育の形態を選択しながら支援が行われます。
③ 具体的な療育プログラムの例
療育プログラムは、「運動」「音楽」「学習」「コミュニケーション」「生活」の5つのテーマに分けることができます。
テーマ | 具体的なプログラム |
運動 | ボール遊び、縄跳び、鉄棒、トランポリン |
音楽 | 歌を歌う、楽器演奏、音楽に合わせたダンス |
学習 | 計算・読み書きの練習、授業中の着席練習 |
コミュニケーション | あいさつ・会話の練習、相手の感情を理解するトレーニング |
生活 | 食事のマナー、排泄トレーニング、交通ルールの学習 |
それぞれのプログラムを通じて、子どもの発達を促し、社会生活への適応力を高めることを目指します。
5. 放課後等デイサービスの開業に資格は必要?
放課後等デイサービスの経営者になるために、特別な資格は必要ありません。
しかし、事業を運営するためには必要な職種と配置基準が決められています。
そのため、経営者自身が資格を持たない場合、必要な職種としての配置ができず、その分人件費が増加する可能性があることに注意が必要です。
開業を検討する際には、事業所に求められる職種や配置基準を事前に把握し、計画的に準備を進めることが重要です。
6. 放課後等デイサービスを開設するための条件とは?
放課後等デイサービスを開設するには、以下の4つの条件を満たす必要があります。
① 法人格を取得すること
事業を運営するには、法人格が必要です。法人の種類には、以下のようなものがあります。
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✅
営利法人:
株式会社、合同会社 など
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✅
非営利法人:
一般社団法人、社会福祉法人、医療法人、特定非営利活動法人(NPO法人) など
どの法人形態でも放課後等デイサービスの運営は可能です。
② 人員基準を満たすこと
放課後等デイサービスを開設するには、以下の職種を適切に配置する必要があります。
職種 | 配置基準 | 必要な資格 |
管理者 | 1名以上 | 資格不要(他職務との兼務可) |
児童発達支援管理責任者 | 1名以上(常勤) | 研修修了+実務経験 |
児童指導員 / 保育士 | 児童10名まで:2名以上 | 指導員任用資格(社会福祉士・精神保健福祉士・児童福祉事業の実務経験等)または保育士資格 |
機能訓練担当職員 | 必要に応じて配置 | 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・公認心理師など |
📌 補足
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児童指導員または保育士のうち、
1名以上は常勤
である必要があります。
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機能訓練担当職員がサービス提供時間を通じて専任で療育を行う場合、児童指導員または保育士の配置人数に含めることができます。
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ただし、児童指導員または保育士の合計数の
半数以上
は、児童指導員または保育士でなければならないため、注意が必要です。
③ 設備基準を満たすこと
放課後等デイサービスを運営するには、以下の設備を整える必要があります。
✅ 必須の設備
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発達支援室(療育を実施する部屋)
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相談室(保護者との面談やカウンセリングの場)
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事務室(スタッフの業務スペース)
事業所によっては、バリアフリー設計や遊具の設置など、より充実した環境を整えることも推奨されます。
④ 運営基準を満たすこと
事業所の運営には、以下の基準を満たすことが求められます。
✅ 運営に必要な要件
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適切な定員の設定(施設の規模や支援体制に応じた受け入れ人数の決定)
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運営規程の作成(事業所の方針やルールを明文化)
-
緊急時対応マニュアルの整備(事故・災害時の対応策を策定)
まとめ
放課後等デイサービスを開設するには、以下の4つの条件をクリアすることが必要です。
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1️⃣
法人格の取得:
(株式会社・合同会社・NPO法人など)
-
2️⃣
人員基準の遵守:
(必要な職種・スタッフの配置)
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3️⃣
設備基準のクリア:
(発達支援室・相談室・事務室などの設置)
-
4️⃣
運営基準の適用:
(定員設定・緊急対応マニュアルの作成など)
開業をスムーズに進めるためには、事前に各基準を確認し、適切な準備を行うことが重要です。
7. 放課後等デイサービス開業までの流れ
放課後等デイサービスの開業には、複数のステップがあり、一般的に半年~1年程度の準備期間が必要です。
ここでは、開業までの具体的な流れを紹介します。
📌 開業までの9つのステップ
ステップ | 内容 |
① 法人設立 | 株式会社・合同会社・NPO法人などを設立 |
② 事業計画書の作成 | 運営方針・事業戦略・資金計画を策定 |
③ 資金調達 | 自己資金・融資・助成金を活用し、開業資金を確保 |
④ 物件探し | 立地・広さ・設備基準を満たす物件を選定 |
⑤ 職員の採用 | 児童発達支援管理責任者・児童指導員・保育士などを確保 |
⑥ 物件のリフォーム | 必要に応じてバリアフリー化や室内整備を実施 |
⑦ 備品の調達 | 机・椅子・教材・送迎車などの準備 |
⑧ 指定申請 | 行政への申請手続きを行い、許認可を取得 |
⑨ 開業 | 利用者募集・契約締結・事業開始 |
📌 開業準備のポイント
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法人設立や指定申請には時間がかかるため、計画的に進めることが重要
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物件探しでは、行政の設備基準を満たしているか事前に確認
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資金調達には、融資制度や助成金の活用を検討する
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職員採用では、必要な資格・経験を満たす人材を確保
しっかりと準備を進めることで、スムーズな開業が可能になります。
8. まとめ
ここまで、放課後等デイサービスの概要、市場の動向、開業までの流れについて解説しました。
放課後等デイサービスを開業するには、法人設立・人材採用・物件探し・行政手続きなど、多くの準備が必要になります。
スムーズな開業を実現するためには、事前に必要な基準や手続きを把握し、計画的に進めることが重要です。
本記事が、開業を検討している方の参考になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。