児童発達支援事業を開業するには、人員基準・設備基準・運営基準など、満たすべき条件があります。
また、開業までには、事業計画書の作成・資金調達・人員確保など、さまざまな準備が必要です。
本記事では、児童発達支援事業の開業に必要な手順や条件、注意点を詳しく解説します。
開業準備をスムーズに進めるための参考にしてください。
1. 児童発達支援事業を開業するための3つの条件
児童発達支援事業を開業するには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
① 法人格の取得
児童発達支援事業は、法人格を持つ事業者のみ運営可能です。
そのため、株式会社・合同会社・NPO法人などの法人を設立する必要があります。
📌 既に法人を持っている場合
事業目的に「児童福祉法に基づく児童発達支援事業」を明記する変更手続きが必要です。
② 人員基準を満たすこと
事業所の形態によって、必要な人員基準が異なります。
📌 児童発達支援事業所(センター以外)の人員基準
職種 | 配置基準 | 備考 |
管理者 | 常勤1名 | 他の職務との兼務可 |
児童発達支援管理責任者 | 常勤1名以上 | 資格要件あり |
保育士・指導員 | 1名以上は常勤 | 利用者数に応じて増員 |
機能訓練担当職員 | 必要に応じて配置 | 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士 など |
📌 機能訓練担当職員を配置する場合
→ 保育士・指導員の配置数に含めることが可能。
📌 児童発達支援センターの人員基準
職種 | 配置基準 | 備考 |
嘱託医 | 1名以上 | 知的障害・精神科・小児科の専門医など |
児童指導員・保育士 | 障害児4人につき1名以上 | 各指定単位ごとに1名以上配置 |
栄養士・調理師 | 各1名以上 | 定員40名以下は栄養士不要、調理業務委託時は調理師不要 |
言語聴覚士 | 指定単位ごとに4名以上 | 難聴児向け事業所に必要 |
看護師 | 1名以上 | 重症心身障害児向け事業所に必要 |
機能訓練担当職員 | 1名以上 | 必要に応じて配置 |
📌 主に難聴児が通う事業所
→ 言語聴覚士を指定単位ごとに4名以上配置。
📌 主に重症心身障害児が通う事業所
→ 看護師1名以上、機能訓練担当職員1名以上が必要。
③ 設備基準・運営基準を満たすこと
📌 設備基準
事業を運営するためには、以下の設備を整える必要があります。
設備名 | 概要 |
指導訓練室 | 定員10名で、障害児1人あたり2.47㎡以上 |
遊戯室 | 障害児1人あたり1.65㎡以上 |
屋外遊技場 | 遊び・運動を行うためのスペース |
医務室 | 怪我や体調不良時の対応ができる部屋 |
相談室 | 保護者の面談・相談を行うスペース |
調理室 | 給食やおやつの提供を行う施設(委託も可) |
便所 | 児童発達支援に適したトイレ設備 |
📌 障害特性に応じた設備も必要
-
知的障害児向け:
静養室
-
難聴児向け:
聴力検査室
📌 運営基準
事業運営には、以下の運営基準を満たす必要があります。
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利用定員:
10名以上(重症心身障害児の場合は5名以上)
-
✅
医療との協力体制:
連携する医療機関を定める
-
✅
苦情受付窓口の設置:
保護者からの意見・要望に対応できる体制を整備
2. 児童発達支援事業を開業するための14のステップ
児童発達支援事業の開業には、事前準備から開業までの多くの手順が必要です。
ここでは、スムーズに開業を進めるための14のステップを紹介します。
📌 開業までの具体的な流れ
ステップ | 内容 |
① 事業内容の決定 | どのような支援を提供するか、事業の方向性を決定。 |
② 事業開始時期の決定 | 事業開始日から逆算し、必要な準備期間を算定。 |
③ ニーズ調査 | 開業予定地の地域特性や利用者ニーズを把握。 |
④ サービス提供地域の決定 | 物件の立地条件や改築・新築の必要性を検討。 |
⑤ 事業計画書の作成 | 経営方針・資金計画・収支計画を含めた計画書を作成。 |
⑥ 法人設立 / 事業目的の変更 | 新規法人の設立、または既存法人の事業目的を変更。 |
⑦ 行政との事前協議 | 書類や施設基準の確認を行い、不備がないか確認。 |
⑧ 資金調達 | 自己資金・融資・補助金など、財務計画を確定。 |
⑨ 施設工事・備品準備 | 設備基準・消防基準を満たす施設工事、備品の調達。 |
⑩ 人員の確保 | 人員基準を満たすスタッフの募集・採用。 |
⑪ 指定事業者申請 | 事業者指定を受けるための申請を自治体に提出。 |
⑫ 施設の現地検査 | 児童福祉法・建築基準・消防法に適合しているか確認。 |
⑬ 開業準備 | 職員研修・契約書作成・業務マニュアル整備を実施。 |
⑭ 開業 | 指定日に事業をスタート!(多くの場合、月初の1日) |
📌 各ステップのポイント
①・② 事業内容・開始時期の決定
どのような支援を提供するかを明確にし、事業開始日から逆算してスケジュールを立てる。
③・④ ニーズ調査とサービス提供地域の決定
地域の利用者ニーズを把握し、適した開業エリアを選定。
物件の条件(新築・改築・賃貸など)を考慮することが重要。
⑤ 事業計画書の作成
事業計画書には、収支計画・資金調達計画・サービス内容などを盛り込む。
提出書類は自治体ごとに異なるため、事前確認が必要。
⑥ 法人設立 / 事業目的の変更
株式会社・合同会社・NPO法人などを設立。
既存法人の場合は、事業目的に「児童発達支援事業」を追加する手続きが必要。
⑦ 行政との事前協議
工事着工前に、施設基準や設備内容について行政と協議。
不備があると開業スケジュールに影響するため、慎重に進める。
⑧ 資金調達
自己資金・補助金・融資などを組み合わせて資金計画を策定。
事業計画書や収支計画書をしっかり準備し、融資交渉をスムーズに進める。
⑨ 施設工事・備品準備
設備基準(指導訓練室・遊戯室など)や消防基準を満たす工事を実施。
工期には予期せぬ遅れが発生する可能性があるため、余裕を持ったスケジュールを設定する。
⑩ 人員の確保
児童発達支援管理責任者・保育士・指導員など、人員基準を満たすスタッフを確保。
⑪ 指定事業者申請
自治体(市町村・都道府県)に申請書類を提出し、事業者指定を受ける。
⑫ 施設の現地検査
児童福祉法・建築基準法・消防法に適合しているか現地でチェック。
⑬ 開業準備
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✅
利用者関連:
重要事項説明書・利用契約書の作成、利用者アセスメント・支援計画の作成
-
✅
職員関連:
面談・研修の実施、採用手続き・給与・保険関連の整備
-
✅
業務関連:
社内規定・業務マニュアルの作成、事務用品の準備、報酬請求ソフトウェアの導入
⑭ 開業!
指定された開業日に事業を正式にスタート。
多くの場合、毎月1日を指定日として開業するケースが多い。
3. 児童発達支援事業開業における3つのメリット
児童発達支援事業を開業することで得られる主なメリットを紹介します。
📌 メリット① 規制緩和により、民間企業の参入がしやすい
2012年の障害者自立支援法の改正により、「児童デイサービス」が「児童発達支援事業」と「放課後等デイサービス」に分かれました。
この法改正により、民間企業や新規事業者の参入が可能になり、業界の拡大が進んでいます。
📊 事業所数の推移
年度 | 事業所数 |
2013年度 | 3,107事業所 |
2016年度 | 6,971事業所 |
規制緩和による影響で、事業所数が3年間で2倍以上に増加しており、慢性的な施設不足の解消に貢献しています。
📌 メリット② 児童発達支援のニーズが年々増加
近年、発達障害や自閉症の診断基準や考え方の変化により、利用者数が増加傾向にあります。
✅ その背景には、以下のような要因があります。
-
早期発見・診断の重要性が広まり、療育の必要性が認知された
-
発達障害への理解が進み、保護者の抵抗感が減少した
その結果、多くの地域で児童発達支援の需要が高まり、供給が追いついていない状況です。
📌 供給が不足している地域では、利用者不足のリスクが少なく、安定した収益を確保しやすいため、開業のメリットが大きいと言えます。
📌 メリット③ 地域貢献につながる
かつては、障害のある子どもが成長すると、地元を離れて遠方の施設へ入所するケースが多い状況でした。
✅ その要因として、以下の問題がありました。
-
地域に適切な施設が不足している
-
利用者のニーズに合うサービスが提供されていない
児童発達支援事業を開設することで、以下のような地域貢献が可能になります。
-
地域で療育を受けられる環境を整備し、障害のある子どもが住み慣れた地域で成長できる
-
放課後等デイサービスや就労支援事業所と連携することで、長期的なサポート体制を構築できる
-
保護者にとっても、安心して子育てができる環境を提供できる
結果として、子どもや家族が住み慣れた地域で安心して生活できるようになり、地域の福祉向上に貢献できます。
まとめ
児童発達支援事業の開業には、以下の3つの大きなメリットがあります。
-
規制緩和により、民間企業が参入しやすくなった
-
発達障害の理解が進み、ニーズが増加している
-
地域に必要な福祉サービスを提供し、社会貢献ができる
これらの理由から、児童発達支援事業は社会的意義が大きく、安定した運営が可能なビジネスモデルと言えるでしょう。
4. 児童発達支援事業開業における3つの注意点
児童発達支援事業を開業するには、事前に注意すべきポイントがいくつかあります。
特に書類手続きの違い、人員基準の厳格化、サービスの質の向上は、事業の運営に大きな影響を与えるため、しっかり確認しておきましょう。
📌 注意点① 自治体ごとの書類手続きの違い
開業には、事業計画書・融資申請書・施設検査書類・指定事業所申請書類など、膨大な書類手続きが必要です。
しかし、都道府県や市町村によって書類の種類や提出時期が異なるため、事前の情報収集が欠かせません。
📌 書類の種類(例)
自治体 | 提出書類数 |
札幌市 | 約26種類 |
大阪府 | 約21種類 |
⚠ ポイント
-
事業計画の初期段階から
自治体窓口に相談
し、必要な書類や提出期限を確認する。
-
申請書類の様式が自治体ごとに異なるため、
テンプレートをそのまま流用せず、最新の様式を使用
する。
📌 注意点② 人員基準の確認と基準の厳格化
児童発達支援事業の人員基準は、事業所の形態や提供するサービス内容によって異なるため、必ず自治体の基準を確認する必要があります。
📌 人員基準を満たしていない場合の影響
-
適切な職員配置がされていないと
減算の対象
となる。
-
人員基準を満たすまでの期間は
報酬が減額
されるため、経営に悪影響を及ぼす可能性がある。
📌 2017年の法改正による人員基準の変更点
-
児童発達支援管理責任者
に「3年以上の支援経験」が必須に。
-
人員配置基準が
「保育士・指導員」
から
「保育士・指導員または障害福祉サービス経験者(2年以上)」
に変更。
⚠ ポイント
-
開業前に、
必要な資格や経験を満たす職員を確保
しておく。
-
加算取得のための人員配置を検討
し、事業計画に反映させる。
📌 注意点③ サービスの質の向上が求められる
2017年の法改正により、児童発達支援事業者には自己評価の実施・公表が義務化されました。
事業所が増加する中で、行政や利用者からの評価も厳しくなっているため、サービスの質を向上させる必要があります。
📌 今後の業界の見通し
-
児童発達支援事業者の増加により、
将来的に供給過多
の可能性がある。
-
少子化の影響で、
利用者数が減少
する可能性もある。
📌 生き残るためのポイント
-
より細かい
個別支援の提供
-
支援計画の適正な作成
と職員のスキル向上
-
他事業者との差別化(
独自のプログラム・地域連携の強化
など)
⚠ ポイント
-
発達障害や重症心身障害の子どもに
適切な早期療育
を提供することが重要。
-
アセスメントを適正に行い、一人ひとりの障害特性に応じた
支援計画を策定
する。
まとめ
児童発達支援事業を開業する際は、以下の3つのポイントに注意が必要です。
-
自治体ごとの書類手続きの違い
を把握する(事前に窓口で確認)
-
人員基準の厳格化
に対応し、適切な職員を配置する
-
サービスの質を向上
させ、他事業所との差別化を図る
特に、法改正による規制強化や市場の変化に適応することが、今後の経営の成功につながります。
5. まとめ 〜 児童発達支援事業の開業に向けて 〜
ここまで、児童発達支援事業の開業に必要な条件、準備の流れ、メリットや注意点について解説してきました。
📌 児童発達支援の需要は今後も拡大
近年、発達障害に対する社会的な理解が進み、低年齢期からの早期診断・療育の重要性が広く認識されるようになりました。
その結果、児童発達支援のニーズは年々高まっています。
しかし、現状ではサービスの供給が追いついておらず、多くの地域で事業所の不足が課題となっています。
📌 児童発達支援事業の開業は、社会貢献とビジネスの両面で大きな意義がある
-
障害のある子ども
が、安心して成長できる環境を提供
-
保護者
が適切なサポートを受けられる場を作る
-
地域の福祉サービス
の充実に貢献
📌 皆さんの開業をサポートするサービスも活用を
この記事を通じて、児童発達支援事業の開業に必要な知識や準備の流れをお伝えしました。
開業には多くの準備が必要ですが、適切な支援サービスを活用することで、スムーズに進めることが可能です。
創業に向けて、万全の準備を整え、一歩ずつ進んでいきましょう!