児童発達支援を開業する際には、施設の設備基準を満たすことが求められます。発達支援室の配置や必要な備品の設置など、適切な内装や間取りを整えることが重要です。
本記事では、児童発達支援における設備基準の概要や内装のポイント、具体的な備品について詳しく解説します。施設づくりの参考にぜひお役立てください。
1. 児童発達支援施設の設備基準
児童発達支援を開業するには、事業運営に必要な設備や備品を整えることが求められます。この基準は「児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準」に基づいており、以下の設備が必要とされています。
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発達支援室
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サービス提供に必要な設備および備品
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支援に必要な機械器具
基準は抽象的な記載となっているため、詳細は自治体ごとに異なる場合があります。開業を検討する際は、各市町村の公式サイトで具体的な設備基準を確認しましょう。以下では、東京都の基準を例に解説します。
(1) 発達支援室
子どもたちが個別の療育や訓練を受けるためのスペースです。東京都では、発達支援室の床面積を子ども1人あたり3㎡以上と定めています(自治体ごとに基準は異なるため要確認)。また、安全面の配慮として以下の対応が推奨されます:
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蛍光灯の飛散防止措置
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コンセントカバーの設置
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防炎カーテンの使用
(2) 相談室
保護者との相談や面談を行うためのスペースです。プライバシーを保護するため、壁で仕切られた個室を設置しましょう。
(3) 事務室
職員が事務作業を行い、書類を保管するためのスペースです。
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パソコンや書類棚など必要な備品を揃えます。
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個人情報を含む重要書類を保管するために、施錠可能な設備が必須です。
(4) トイレ・洗面所
定員に応じたトイレと洗面所を用意します。
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手すりやスロープなど、子どもの障害状況に応じた設備を設置しましょう。
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衛生管理のため石鹸やペーパータオルを備えます。
(5) 静養室
体調不良時に子どもが休息できるスペースです。独立した部屋で、静かな環境を確保しましょう。
(6) 医務室(児童発達支援センターの場合)
児童発達支援センターの場合、医務室の設置が必要です。静養室と兼用することも可能です。治療を行う場合は診療所(医療法に規定)としての基準を満たす必要があります。
(7) 遊戯室(児童発達支援センターの場合)
雨天時でも遊べる室内スペースで、東京都では児童1人あたり1.65㎡以上の床面積が基準とされています。
(8) 屋外遊戯場(児童発達支援センターの場合)
屋外で遊べるスペースを確保します。児童発達支援センターの場合は設置が必要です。建物と同一敷地内または近隣に設置しましょう。
(9) 調理室(児童発達支援センターの場合)
児童発達支援センターの場合、保健所の施設基準を満たす調理室の設置が必要です。外部搬入を行う場合(例、給食)は設置が免除されることもあります。
(10) 必要な備品
児童発達支援に必要な主な備品は以下の通りです:
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ロッカー
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机、椅子
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パソコン、複合機、請求ソフト
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おもちゃ、機能訓練機器
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体温計などの医療機器
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冷蔵庫、電子レンジ、テレビ
施設の運営や療育の質を高めるため、備品の選定も重要なポイントです。
2. 児童発達支援施設の内装のポイント
子どもたちが安心して過ごせる環境を提供するために、施設の内装は非常に重要です。ここでは、内装設計で意識すべき3つのポイントをご紹介します。
(1) バリアフリー設計で誰もが使いやすい環境を整える
車いすや歩行補助具を使用する子どもでも安全かつ快適に移動できるよう、バリアフリー設計を取り入れることが重要です。以下のような工夫を行いましょう。
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段差の解消:
室内や廊下に段差を設けず、必要に応じてスロープを設置する。
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通路や出入口の幅広設計:
車いすでも通れるように、十分な幅を確保する。
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バリアフリー対応トイレ:
広いスペースや手すりを設置し、子どもの障害状況に対応可能な設計にする。
(2) 安全性を確保するための工夫
児童発達支援事業所では、子どもたちが安全に過ごせるよう、事故やケガを防ぐための配慮が必要です。以下のポイントを意識しましょう。
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蛍光灯の防護カバー:
蛍光灯の破損時にガラス片が飛散しないよう、防護カバーを設置する。
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家具の角にクッション材:
机や棚などの角にクッション材を取り付け、ぶつかった際のケガを防ぐ。
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クッション性のある床材:
転倒時のケガを防ぐために、柔らかい素材の床材やカーペットを使用する。
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防滑加工:
水がかかる可能性がある場所には、防滑加工を施した床材を採用する。
(3) 分かりやすい間取りとスムーズな動線設計
子どもたちが迷うことなくスムーズに移動できる間取りや動線を設計することで、移動において感じるストレスを軽減できます。また、指導員が子どもの行動を把握しやすい環境も重要です。以下を参考にしてください。
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死角のない発達支援室:
指導員が全体を見渡せるよう、一体感のある空間を設計する。
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矢印シールの活用:
壁や床に矢印シールを貼ることで、子どもが目的地に迷わず移動できるようにする。
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収納棚の配置:
子どもの目線の高さに収納棚を設置し、自分で片付けがしやすい環境を整える。
3. 満たすべき建築基準法と消防法への適合
児童発達支援を開業するためには、設備基準を満たすだけでなく、建築基準法や消防法といった法律の基準をクリアする必要があります。これらの法律は、施設の安全性や防災対策を確保するために欠かせないものです。
(1) 建築基準法とは
建築基準法は、建物の敷地・設備・構造・用途に関する最低基準を定めることで、国民の命や健康、財産を守ることを目的とした法律です。児童発達支援施設も、この法律に基づいて安全性を確保する必要があります。
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「確認済証」と「検査済証」の提出
施設が建築基準法に適合していることを証明するために、以下の書類を自治体に提出する必要があります:-
確認済証:建築物が法律に適合していることを証明する書類。
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検査済証:建築工事が確認済証に適合して完了したことを証明する書類。
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自治体への確認
必要な手続きや書類は自治体によって異なる場合があります。指定申請を行う自治体に詳細を確認しましょう。
(2) 消防法とは
消防法は、火災の予防と警戒を目的とした法律で、児童発達支援施設の安全性を確保するため、一定の防火設備の設置を義務付けています。児童発達支援施設は消防法上「6項(ハ)」に該当し、以下のような設備が必要です:
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消防用設備の設置基準
建築物の延べ面積や収容人数に応じて、以下の消防用設備を設置する必要があります:-
消火器:延べ面積150㎡以上の場合に設置。
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屋内消火栓設備:延べ面積700㎡以上の場合に設置。
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スプリンクラー設備:床面積合計6,000㎡以上の場合に設置。
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自動火災報知設備:延べ面積300㎡以上の場合に設置。
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火災通報装置:延べ面積500㎡以上の場合に設置。
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非常警報設備:収容人数50人以上の場合に設置。
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避難器具:20人以上(下階の用途によっては10人以上)の場合に設置。
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誘導灯:すべての施設に設置。
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防炎措置:カーテンや布製品に防炎加工を施す(すべての施設で適用)。
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消防機関への確認
設置が必要な設備は、建物の面積や構造、用途によって異なります。開業前に管轄の消防署に相談し、必要な設備について確認を行いましょう。
建築基準法と消防法は、児童発達支援施設の安全性を確保するための重要な法律です。これらの基準をクリアすることで、子どもたちや保護者、職員が安心して過ごせる環境を整えることができます。準備段階でしっかり確認し、必要な設備を適切に設置するようにしましょう。
4. 設備基準において、注意すべきポイント
(1) 運営指導を想定した運営
運営指導が入った際に指摘を受けないよう、事前に設備を整えることが重要です。以下の点を定期的に確認しましょう。
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個人情報の保管:
個別支援計画書や記録などの個人情報を鍵付きの棚や収納に保管。
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備品管理:
消毒薬品や危険物の安全な保管方法を確保。
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老朽化対策:
設備や内装に老朽化による危険箇所がないか確認。
さらに、指定申請後に設備や間取りをリフォームした場合は、10日以内に自治体に届け出を行う必要があります。
(2) 定期点検の実施
事業所で使用する専門機材や車いすなどは、安全かつ清潔に保つため、定期的な点検が必要です。
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車いすの点検例:
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ブレーキの利き具合
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フットレストやネジの緩み
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タイヤの空気量や状態(錆びつきや汚れを確認)
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業務が忙しい中でも、安全な環境の提供は必須です。最低でも年に数回は点検を実施しましょう。
(3) 機能訓練の実施に伴う基準の相違
機能訓練を提供する場合、その種類や内容に応じて必要な器具や設備が異なります。開業前に、計画している訓練に対応する設備基準を確認し、準備を整えましょう。
5. まとめ
この記事では、児童発達支援を開業・運営するために必要な設備基準や内装のポイント、さらに建築基準法や消防法に関する重要なポイントを解説しました。児童発達支援の事業所を開設する際には、子どもたちが安心して過ごせる環境を整えることが最優先です。そのため、設備基準の遵守だけでなく、安全性や機能性に配慮した内装設計、そして法令順守を徹底することが大切です。本記事が、児童発達支援の開業や運営を検討する皆様の参考となり、より良い支援環境づくりの一助となれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。